コラム

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テレワーク制度の見直しを検討してみてはいかがでしょうか

企業のテレワークの導入状況

2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大後、企業へのテレワークの導入が急速に進みました。総務省実施の令和4年通信利用動向調査によると、テレワークを導入している企業は50%を超えています。テレワークの中でも在宅勤務が90%を占めています。

テレワークの形態

テレワークは、①在宅勤務②サテライトオフィス勤務③モバイル勤務に分類されます。

①在宅勤務
労働者の自宅で行う在宅勤務は通勤を要しないことから、通勤に要する時間を柔軟に活用できます。また、育児休業明けの労働者が短時間勤務等と組み合わせて勤務することが可能となること、保育所の近くで働くことが可能となり、仕事と家庭生活との両立がしやすくなる働き方です。

②サテライトオフィス勤務
労働者が働くメインのオフィス以外に設けられたオフィスを利用する働き方で、自宅の近くや通勤途中の場所等に設けられたサテライトオフィスでの勤務は、通勤時間を短縮しつつ、在宅勤務やモバイル勤務以上に作業環境の整った場所で就労可能な働き方です。
サテライトオフィスにシェアオフィス、コワーキングスペースが含まれます。

③モバイル勤務
ノートパソコンや携帯電話等を活用して臨機応変に選択した場所で行い、自由に働く場所を選択できるため、外勤における移動時間を利用できる等、働く場所を柔軟にすることで業務の効率化を図ることが可能な働き方です。

テレワークのメリット

・労働者側のメリット
労働者にとって、オフィスでの勤務に比べて、働く時間や場所を柔軟に活用することが可能であり、通勤時間の短縮及びこれに伴う心身の負担の軽減、仕事に集中できる環境での業務の実施による業務効率化につながります。また、育児や介護と仕事の両立がしやくなるなど、仕事と生活の調和を図ることができます。

・会社側のメリット
業務効率化による生産性が向上し、育児や介護等を理由とした労働者の離職の防止、遠隔地の優秀な人材の確保、オフィスコストの削減等を図ることができます。

テレワーク導入のポイント

使用者が適切に労務管理を行い、労働者が安心して働くことのできる良質なテレワークとするため、下記の事項を話し合い、定めましょう。

・対象業務の選定
・対象労働者の範囲
・水道光熱費、通信費などの費用負担
・テレワーク勤務時の給与や手当
・労働時間管理の方法や中抜け時間の取り扱い
・テレワークで扱う情報の取り扱い
・長時間労働対策やさぼり対策

①対象業務の選定
テレワークの対象業務選定時に、一般にテレワークを実施することが難しいと考えられる業種・職種であっても個別の業務によっては実施できる場合があります。このため、必ずしもそれまでの業務の在り方を前提にテレワークの対象業務を選定するのではなく、仕事内容の本質的な見直しを検討することも必要です。

②対象者の選定
労働者がテレワークを希望する場合や、使用者が指示する場合がありますが、いずれにしても実際にテレワークを実施するに当たっては、労働者本人の納得の上で、対応を図る必要があります。また、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、あらゆる待遇について不合理な待遇差を設けてはならないこととされています。

一例として、対象者を「在籍〇年以上の者」、「効率的に業務を遂行できると上司が判断した者」という規程を設けている企業もあります。

③水道光熱費、通信費などの費用負担
在宅勤務において、労働者個人が契約した電話回線等を用いて業務を行わせる場合、通話料、インターネット利用料などの通信費が増加する場合や、労働者の自宅の電気料金等が増加する場合、実際の費用のうち業務に要した実費の金額を在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえて合理的・客観的に計算し、支給することも考えられますので、明確に定めておく必要があります。

④在宅勤務における給与や手当
在宅勤務において支給される手当について定めておく必要があります。
例えば、通勤手当に関して、週〇日以上会社に出勤したなら通勤手当を支給するなどと定めます。水道光熱費、通信費においては、在宅勤務手当として一定額を支給する、または実際の費用のうち業務に要した実費の金額を在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえて合理的・客観的に計算し、支給すると定めておく必要があります。

補足として、在宅勤務手当を割増賃金の算定基礎に含めるかについて、原則、在宅勤務手当は「割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金(家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金及び一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金)」に含まれないため、割増賃金の基礎に算入されます。

一方で在宅勤務手当が必要な実費を弁償するものとして、就業規則等で実費弁償分の計算方法が明示され、かつ、当該計算方法は在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法である必要がある場合は割増賃金の基礎に算入しません。
「在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法」の詳細に関しては下記となります。

(1)国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」で示されている計算方法
(2)(1)の一部を簡略化した計算方法
(3)実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法

詳細に関しては、「割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱いについて」を参照ください。

⑤労働時間管理の方法や中抜け時間の取り扱い
労働時間の把握については、使用者は労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録する必要があります。

(1) 原則的な方法
・使用者が自ら現認する(使用者が自ら確認し記録をつけていく)
・タイムカード、ICカード、勤怠管理システム等の客観的な記録を用いて確認し、適正に記録

(2)例外としてやむを得ず自己申告制で行う場合
・労働者、管理者に対して十分な説明を行う
・必要に応じて、自己申告した労働時間とPCのログで実態との乖離がないか確認する
・労働者からの適正な自己申告を阻害する措置を設けない

育児や介護を行っている者であれば、在宅勤務中に柔軟な働き方を希望することが考えられますので、フレックスタイム制や始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ(時差出勤制度)の導入を検討します。また、在宅勤務中は中抜けをすることも考えられますので、中抜けの時間を休憩時間として取り扱い終業時間を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇として取り扱うといったことも定めておきましょう。


⑥情報の取り扱い
テレワーク勤務の実施に当たっては、会社情報の漏洩等が懸念されるため、会社情報の取扱いに関して服務規律で規程、またはセキュリティガイドラインを策定しておきましょう。

⑦長時間労働対策やさぼり対策
テレワークについては、業務の効率化に伴い、時間外労働の削減につながるというメリットが期待される一方で、労働者が使用者と離れた場所で勤務をするため相対的に使用者の管理の程度が弱くなることや、業務に関する指示や報告が時間帯にかかわらず行われやすくなり、労働者の仕事と生活の時間の区別が曖昧となり、労働者の生活時間帯の確保に支障が生ずるといったおそれがあることに留意する必要があります。

このような点に鑑み長時間労働による健康障害防止を図ることや、労働者のワークライフバランスの確保に配慮することが求められます。テレワークにおける長時間労働等を防ぐ手法としては、次のような手法が考えられます。

・メール送付の抑制
・システムへのアクセス制限
・時間外・休日・所定外深夜労働についての手続
・長時間労働等を行う労働者への注意喚起

さぼり対策しては、朝礼・朝会で本日の業務リストを従業員に提出してもらい、終業間際に業務リストの進捗具合を報告してもらうことなどが考えられます。

「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、テレワークの導入・実施にあたって労使で話し合う事項の一例が紹介されています。

テレワーク勤務規程でルールを明確に

テレワーク勤務規程に下記事項について規程しましょう。
規程例に関しては、テレワークモデル就業規則~作成の手引き~を参照ください。

・テレワーク勤務の定義
・テレワーク勤務の対象者
・サテライトオフィス勤務の利用申請
・テレワーク勤務時の服務規律
・テレワーク勤務時の労働時間
・テレワーク勤務時の休憩
・テレワーク勤務時の所定休日
・テレワーク勤務時の時間外労働等
・中抜け時間の取扱い
・テレワーク勤務時の労働時間の把握
・テレワーク勤務時の賃金・費用負担・情報通信機器等の貸与
・テレワーク勤務における教育訓練
・安全衛生の確保
・ハラスメント防止

助成金の案内

テレワークに係る助成金は厚生労働省のほか、東京しごと財団(東京都)で実施されています。

厚生労働省:人材確保等支援助成金(テレワークコース)
東京しごと財団:テレワーク助成金2024年度一覧

最後に

新型コロナウイルス感染症の拡大後、企業へのテレワークの導入が急速に進みました。ですが、準備不足のまま導入した企業が少なくないと思います。コロナ禍が落ち着いた今、テレワーク制度の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。

【参考】
総務省:我が国の企業のテレワークの導入状況 ※引用元
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/nd24b220.html

厚生労働省:テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン ※引用元
https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf

厚生労働省:テレワークモデル就業規則
https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/001084303.pdf

厚生労働省:割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱いについて
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T240409K0010.pdf

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